いま押さえなければならない制度改正の動向 いま押さえなければならない 2021年の制度改正の動向

 

2021年は企業の経営企画、総務、IR等の担当者にとって重要な年となる。東証の市場区分変更への対応が本格化し、それと歩調を合わせてコーポレートガバナンス・コード(CGコード)も改訂される。株主総会のオンライン化はさらに広がりを見せるだろう。これらについて2020年12月の最新動向を踏まえ、そのポイントを紹介する。

 

 

東証の市場区分の見直し

同12月25日、東証が「「市場区分の見直しに向けた上場制度の整備について(第二次制度改正事項)」を公表した。この中で新市場区分の全体像、上場会社の移行プロセス、経過措置等が示されている。21年2月26日までパブリック・コメントを募集しており、それを踏まえて今春、制度要綱が公表される予定だ。新市場区分では、現行の4市場区分が「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場に再編され、22年4月4日に一斉移行する。現在の東証1部企業の多くはプライム市場への移行を希望しているようだが、日本経済新聞(20年12月26日付朝刊)によれば現在の東証1部企業約2,200社のうち約600社が現時点でプライム市場への(第二次制度改正事項で示された)上場基準を満たしていないという。上場会社自身による市場選択の手続きは今年9~12月に実施予定だが、自社がどの市場を選ぶかは企業経営にとって重要な判断となる。

 

コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の改訂

東証の市場区分見直しと軌を一にしてCGコードの改訂も進んでいる。改訂版は今春公表予定だが、それに先立って昨年12月18日に金融庁から「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」意見書(5)-コロナ後の企業の変革に向けた取締役会の機能発揮及び企業の中核人材の多様性の確保」が公表された(※筆者はフォローアップ会議のメンバー)。この意見書の目的はCGコードの改訂方針を先行して公表することで、企業側に対応するための時間を確保してもらうことにある。意見書の最大のポイントは「プライム市場の上場企業に対し、独立社外取締役の3分の1以上の選任を求めるべきである」「それぞれの経営環境や事業特性等を勘案して必要と考える企業には、独立社外取締役の過半数の選任を検討するよう促すべきである」と明記したことである。新市場区分でプライム市場への上場を検討する際はCGコード改訂の動向から目を離せない。

 

バーチャル株主総会の実施

昨年12月23日、経済産業省より「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集(案)」が公表され、この1月22日まで意見募集が行われている。会社法の解釈上、日本ではバーチャルのみで株主総会を開催することはできないとされている。従って、リアル開催とバーチャル開催を組み合わせた「ハイブリッド型」での実施となるが、バーチャル総会で議決権の行使ができる「出席型」と議決権の行使はできない「参加型」に分類される。実施事例集によれば、20年6月に開かれた株主総会で出席型のハイブリッド型総会は9社、参加型のハイブリッド型総会は113社だった。今後、出席型・参加型ともにハイブリッド型総会の実施企業は増えるだろうが、実務担当者には懸念や不安、疑問点も多いと思われる。そうした疑問点などへのガイドラインを示したのが今回の実施事例集である。実務担当者には貴重な情報源であり、一読を薦めたい。なお、バーチャルのみ総会の開催に向けて関係諸機関も動き始めている点を付記しておく。

 

このように、21年は企業経営の根幹に関わる大きな制度改正が控えている。どの新市場を選択するかは企業の判断次第であり、CGコードもコンプライ・オア・エクスプレインの枠組みはこれまで通りである。バーチャル総会を開催するかどうかも企業が自由に選択できる。
実務担当者にとっては負担も大きいが、横並び意識を捨て、自社にとって最適な選択が何かを今から真剣に議論しておくといいだろう。

 

 

※本コラムは2021年1月に執筆いただいたものです。

円⾕昭⼀(つむらやしょういち)⽒
2001年、⼀橋⼤学商学部卒。2006年、⼀橋⼤学⼤学院商学研究科博⼠後期課程修了、博⼠(商学)。埼⽟⼤学経済学部専任講師、准教授を経て、2011年から⼀橋⼤学⼤学院経営管理研究科准教授。2019年、韓国外国語⼤学客員教員。専⾨は情報開⽰、コーポレートガバナンス。2007年から⽇本IR協議会客員研究員。⽇本IR学会理事も務める。2013年、経済産業省「持続的成⻑への競争⼒とインセンティブ-企業と投資家の望ましい関係構築を考える-」委員。2017年、りそなアセットマネジメント「責任投資検証会議」メンバー。 主著に『コーポレート・ガバナンス「本当にそうなのか?」 ⼤量データからみる真実』(同⽂舘出版)、『政策保有株式の実証分析』(⽇本経済新聞出版)など。

 

 

掲載日:2022年1月12日

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