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QUICK企業価値研究所

 

総合商社セクターの特徴は?――トレーディングから事業投資を経て「事業経営」へ

総合商社は「ラーメンからミサイルまで」と言われるほど、幅広いビジネスを展開しています。例を挙げれば、伊藤忠商事は「繊維」「機械」「金属」「エネルギー・化学品」「食料」「住生活」「情報・金融」に加えてビジネス基盤を最大限活用し、市場や消費者のニーズに応える「マーケットインの発想」で次世代ビジネス・客先の開拓を目指す「第8カンパニー」を新設しました。

1980年代からインターネット勃興期を迎えるまで、メーカーは自社でトレーディングを行っていました。当時の総合商社はいわば「冬の時代」で、商社不要論まで巻き起こっていました。それが、中国のWTO加盟(2001年)によって大きな転換期を迎えます。「中国が資源を爆買い」→「商社の業績アップ」→「株価上昇・時価総額拡大」という構図です。

日本の少子高齢化、つまり人口減少によって総合商社セクターの将来を疑問視する見方がありますが、私はそうは捉えていません。日本は人口が減りますが、世界では増えます。今後は総合商社が取り扱うエネルギーや食料ビジネスの価値、ニーズが相対的に高まると考えるからです。

総合商社は最近まで、投資会社のような「事業投資」が大きな比重を占めていました。現在は違います。さまざまな企業に投資しながら深く経営に関わるハンズオンによる「事業経営」を指向することが中心になりつつあります。

企業の何をどう見ている?――経営人材をどう育成していくのか

業績・株価予想を含めたフルレポートを書く総合商社は6社あります。事業分野が多岐にわたるので、四半期ごとに個別取材するなど企業のIR担当者と密に接することが大前提になります。ハンズオンによる事業経営が中心になると、求められるのは経営人材。総合商社の業務の中で、いかにそのような人材を育成できるか。その点は注意深く見る必要があります。

今後は製造業と非製造業が融合する時代が来るでしょう。そこでは、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)のようなプラットフォームビジネスにうまく対応できるかどうかも問われます。好事例の一つが前述の伊藤忠商事の「第8カンパニー」です。この問題意識は総合商社すべて同じだと思います。

総合商社セクターで最近面白いのはトップ人事。傍流にあった人が大抜擢されたり、過去に失敗した人が返り咲いたり。必要な人材を思い切って抜擢できる組織の柔軟性があるかどうか。そこにも注目しています。

IR活動へのリクエストやアドバイス――配当性向を高め、それをアピールしてほしい

各社、相当に努力していると思います。IR担当者に財務畑の人が多くなる傾向がありますが、当初から自社ビジネス全体を網羅した知見を持つ方は少ないかもしれません。取引先が多く、中には業績や企業統治にばらつきがあるようで、バリューチェーンを網羅した詳細な情報を出したくても出せないケースが散見されます。

個人向けIRが活発で株主還元にも注力しています。配当性向はセクター平均で約30%ですが、欧米は平均で40%くらいあるので、このレベルを目指してほしいですね。配当性向の高さを個人投資家にもっとアピールしても良いと思います。地方での個人投資家向け説明会が活発なのは好感が持てます。業態としての分かりにくさをどう説明するのかがポイントになるでしょう。

こんなところも見ています!?アナリストの5つの本音

  • •チーフストラテジストとして、個別企業の動向に加えてマクロ経済や株式相場全体の動きも見ています。総合商社の分析は、チーフストラテジストとしての活動にも役立っています。
  • •総合商社の間で収益の差が生まれる要因の一つは原油や石炭、天然ガス、鉄鉱石など資源分野の上流権益の大小。歴史的な成り立ちにより、会社ごとに収益構造も異なるため、それらを踏まえたうえで評価しています。
  • •株価が割安なのは収益の振幅が大きいことも理由の一つ。会計基準の問題など仕方がない部分もありますが、投資家が懸念するのも理解してほしいと思います。
  • •総合商社はいわゆる「コングロマリット・ディスカウント」として、外国人投資家からの評価が相対的に低くなりがちです。外国人投資家は選択と集中を好みますが、海外には総合商社という業態がなく理解が進んでいないため、海外投資家へのIRは難しいものと同情します。
  • •取引先が多く利害関係も多いので、サプライチェーンの動向を勘案しつつIRをしなければならない苦労があるのではないかと思います。
QUICK企業価値研究所 チーフストラテジスト/シニアアナリスト 堀内 敏成

明治大学文学部文学科卒業、法政大学大学院修士課程経営学専攻マーケティングコース修了。中央証券(現ちばぎん証券)入社。ちばぎんアセットマネジメント調査部、QBR(現QUICK企業価値研究所)調査部シニアアナリストを経て、現在に至る。 個人営業、国際営業、金融法人営業、企業調査など幅広く証券業務を経験。企業調査歴は通算で約22年。フットワーク、人的ネットワークを生かした継続的な個別取材を重視し、企業分析に取り組む。また、「謙虚に、柔軟に、多面的に」をモットーに、的確な相場見通しを構築すべく、研鑽に励む。


日本証券アナリスト協会検定会員

日本証券アナリスト協会 ディスクロージャー研究会 商社専門部会評価実施アナリスト

日本FP協会CFP


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掲載日:2019年10月1日