ESG研究所【ESGブック】地政学リスクとエネルギー関連企業のサステナビリティ
2026年03月24日

米国とイスラエルが2月28日、イランに対して軍事攻撃を始め、エネルギー市場を大きく揺さぶっている。原油価格の高騰は再生可能エネルギーの相対的な経済性を改めて浮き彫りにした。エネルギー価格を通じて世界経済には再びインフレ圧力がかかりつつある状況下で、化石燃料を担いながらも再生可能エネルギーへの移行を現実的に進めている企業はどこなのか。本稿では、AI(コパイロット)を用いてその実態を整理してみたい。なお、AIが主に情報源とした情報提供機関は国際エネルギー機関(IEA)、ブルームバーグNEF、マッキンゼーである。
■化石燃料と再生可能エネルギーの両立力の評価軸
近年、エネルギー転換をめぐる評価軸は単純な「脱炭素の速さ」から、「供給を壊さずに移行できるか」へと変化している。国際機関や投資家の分析では、概ね、①足元の石油・天然ガス事業における収益力と供給信頼性、②再生可能エネルギーや低炭素分野への投資規模とその持続性、③液化天然ガス(LNG)、電力、水素、CCS(二酸化炭素回収・貯留)といった分野を横断する統合力、④実行可能性のある脱炭素ロードマップの策定――の4点が重視されている。この観点で見ると、グローバルでは欧州メジャーが先行している。
■グローバル主要企業のポジション

中でもフランスの トタルエナジーズ は、石油・ガスの高い収益力を維持しつつ、電力事業や再生可能エネルギーを事業の中核に据えつつあり、最もバランスが取れている。ノルウェーのエクイノールは洋上風力やCCSにおける技術的優位性が際立ち、国家支援も背景に長期戦略が明確である。一方、英国のメジャーは依然として化石燃料の収益性を重視し、再生可能エネルギー自体への関与は限定的と言える。
それでは、サステナビリティのパフォーマンス指標であるESGパフォーマンススコア・コアおよび、そのサブスコアである環境ディメンションスコア・コアについて、執筆時点における直近(2026年3月17日)のスコアを確認する。5社の中では、トタルエナジーズがトータルスコア、環境スコアのいずれにおいても最も高い評価を示した。一方、エクイノールは両スコアともに5社平均を下回る結果となっている。
ただし、2025年3月17日時点のスコアと比較した前年比では、エクイノールは両スコアとも改善している点が注目される。前年比で見ると、ブリティッシュ・ペトロリアムは両スコアが低下しており、残る4社のうちでは、トタルエナジーズのトータルスコアが0.64低下したことを除き、その他のスコアはいずれも上昇している。
■アジア(日本を含む)の状況

日本企業では ENEOSホールディングス が既存の製油所や供給網を活用し、水素や合成燃料へと段階的に移行する戦略を明確にしており、日本のエネルギー安全保障と最も整合的である。INPEX はLNGとCCSを軸に、アジア太平洋地域の脱炭素化において欠かせない存在となりつつある。またマレーシアのペトロナス や中国の中国石油化工 は、それぞれLNG・水素分野で産業規模の移行を進める代表例である
サステナビリティ・パフォーマンスを比較すると、アジア地域ではタイのPTTグループが5社中で最も優れた水準を示している。スコア水準そのものが高いだけでなく、前年比においても両スコアが着実に改善しており、継続的な取り組みの成果がうかがえる。一方で、ペトロナスおよび中国石化は、両スコアともにアジア5社平均を下回っている。特にペトロナスは前年比で両スコアが低下しており、今後はサステナビリティに関する方針の明確化や取り組みの一層の高度化が求められる。
■まとめ
地政学リスクが前面に出る中、エネルギートランジションは理想論では進まないことが明らかになっている。重要なのは、供給を維持し、価格変動やインフレに耐えながら、持続的に低炭素化を進める力である。その意味で、グローバルでは トタルエナジーズ、エクイノール、シェル、アジアではENEOS、ペトロナス、中国石化 が、化石燃料と再生可能エネルギーを現実的に「両立」させつつある企業と言えるだろう。
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最後に、25年8月27日以降、継続的に取り上げてきたESGブックの兄弟会社である「アラベスクAI」による分析を取り上げる。
■26年2月12日時点のAI「弱気」シグナル10社の検証
前回の検証で取り上げた「オルカン」連動型ETFの「1カ月後の株価上昇確率」が下位10社を抽出し、その動向を追ってみた。分析データは、ETFの最新組入情報に基づいた26年2月12日時点のAIシグナルを用いて、対象となるワースト10社(括弧内は本拠国・地域および1カ月後の上昇確率)の26年3月12日の終値を分析した結果は次の表である。

米国とイスラエルによる対イラン軍事作戦開始に伴うエネルギー価格の急騰は、市場に大きな混乱をもたらした。この地政学リスクは、AIの予測モデルにとっても極めて高い障壁となった。 実際、株価上昇の期待値が低い「ワースト10社」を対象とした今回の検証結果は極めて異例なものだ。3月12日時点の株価を確認すると、下落したのは6社に留まり、残り4社は上昇した。AIが下落を予測した銘柄の4割が上昇したという事実は、今回の市場環境がいかに特殊であったかを物語っている。

こうした状況下でのAIの反応を詳細に見ることは、今後の予測精度向上において重要である。出光興産を例に挙げると、2月12日時点で12.00%だったAIシグナルは、有事の進展とともに3月17日には49.65%まで急上昇している。株価そのものは3月12日までの1カ月で1.27%の小幅な上昇に留まっているが、AIが上昇の蓋然性を敏感に察知し、予測を修正しつつある様子が読み取れる。
もっとも、49.65%という数値は依然として「五分五分」の状態であり、強気相場への確信には至っていない。このAIシグナルの変化が実際の株価形成にどう結びつくのか、引き続き実動データに基づき、冷静な検証を継続していきたい。
ESGブック(アラベスクS-Ray 社)日本支店代表 雨宮寛
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