必要なリスク情報をいち早く収集するFASTALERT 能登豪雨から考える「想定外」への対応 オールリスクBCPの重要性とは

能登半島地震からの復旧・復興が道半ばという中で2024年9月に発生した豪雨災害(以下「能登豪雨」とする)は、筆者にとっても衝撃的な出来事だった。

能登半島地震においては、特にソーシャルメディア上で偽の救助要請や「インプレゾンビ」による誤情報の拡散が相次ぐなど、発災直後の情報収集の困難さという課題が浮き彫りになった。

こうした課題を解決すべく、筆者が経営する株式会社JX通信社では、かねて自治体や企業、報道機関に提供してきたAIリスク情報サービス「FASTALERT(ファストアラート)」と、市民参加型ニュース速報アプリ「NewsDigest(ニュースダイジェスト)」を活用した、行政の災害時の情報収集・発信のDXに取り組んでいる。その取り組みを今回の地震の被災地でも実践すべく、石川県能登町との連携協定を締結した。
締結式は9月20日だったため、同日に筆者も能登を訪れたが、(参考:https://jxpress.net/12922/)道中、現地の復旧が途上にあることを痛感させられる風景を多く目にした。道路はところどころ陥没、崩落しており、そこを埋めて応急処置的に復旧させている。また、家屋は補修が追いつかず、ビニールシートを被っているところが多い。
<9月20日に撮影した能登町の地震による被害状況(撮影:筆者)>
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そんな状況を目にした翌日、能登半島で急速に発達した線状降水帯のもたらした被害の状況には衝撃を受けた。FASTALERTを通じて刻一刻と私達に伝わってきたのだった。

再びの災害によって長期化する避難生活を余儀なくされている方々には、心よりお見舞い申し上げる。
一方、線状降水帯が日本海側で発生し、これだけの被害をもたらしたことに意外な印象を持った方も多いのではないだろうか。この点をまず解説したい。

線状降水帯の事前情報と予測困難性

線状降水帯に関して気象庁から発表される情報には、「線状降水帯による大雨の半日程度前からの呼びかけ」と「顕著な大雨に関する気象情報」がある。特に呼びかけについては、2024年春から運用が詳細化されたが、残念なことに、今のところこの的中率は10%を下回る。また、「見逃し」も約半数のケースで発生しており、能登豪雨についても、事前に呼びかけることができなかった。
府県単位でのとりまとめ結果
運用開始前の想定
(令和5年のデータから検証)
令和6年
(9月30日時点)
線状降水発生の呼びかけ「あり」
のうち
線状降水帯の発生「あり」※2
25%程度
(4回に1回程度)
約10%
81回中8回
線状降水発生の呼びかけ「あり」
のうち
線状降水帯の発生「あり」※2
50%程度
(2回に1回程度)
約53%
17回中9回
的中(高い方がよい)
見逃し(低い方がよい)
※2 線状降水帯の実例数と、府県単位での線状降水帯の発生「あり」の数は異なる場合がある。
(出典:https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jirei/senjoukousuitai/R06jisseki.pdf
線状降水帯の発生メカニズムは、台風と異なり、まだ未解明の部分が多く、観測にあたっても3次元的な解析を要することから、衛星写真等だけでは分析が困難なことがわかっている。気象庁のウェブサイトでも、その予測の困難さが丁寧に解説されている(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yohokaisetu/senjoukousuitai_ooame.html)。

予測が困難な災害に対して、私たちができることは、発信される情報に対して、どの程度のリスクであるのかを正しく受け止め、正常性バイアスを打破しつつ、適時適切な行動をとることに尽きる。ここで、最近頻繁に耳にするようになった「経験したことがないような大雨」という表現の意味について確認したい。

「経験したことのない大雨」が降ることの危険性

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上の図は、左が能登半島地震(2024年1月1日)の震度分布、右が能登豪雨においてFASTALERTが土砂災害等を検知した場所(白アイコン)と、「大雨の稀さ」をメッシュ解析した国立研究開発法人防災科学技術研究所(防災科研)のデータを重ね合わせたものである。偶然にも、地震被害が大きかった地域をまさにピンポイントで大雨が襲ってしまったことがわかる。

ここで重要なのは、よく天気予報で見る「1時間あたりの降雨量(雨の強さ)」や、「24時間累積雨量」ではなく、「大雨の稀さ」に着目することだ。「大雨の稀さ」という表現は「◯◯年に一度の大雨」と報道で用いられるように、どれだけ「稀な」出来事なのかを表現するデータで、学術的には「降雨量の再現期間」と呼ばれている。つまり、直近降り続いている雨が、「その地域のこれまでの降雨記録からして、統計的にどのくらいの期間に一度起きうるレベルのものであるか」を、統計的に計算したものだ。防災科研では、観測値を用いてこの計算をリアルタイムに繰り返し、いくつかのパターンで公開している。
https://midoplat.bosai.go.jp/web/3p-rainrp/index.html

このデータは、土砂災害との関連性が強いデータ、浸水害との関連性が強いデータ、など複数あり、一般人が読み解くのはなかなか難しいのだが、FASTALERT上で実際の被害と重ね合わせて表示してみると、ズバリ、「100年に一度レベル」と判定されている紫色の地域に土砂災害の被害が集中していることがわかる。

地質学の専門家によれば、能登半島では溶岩や火砕流が堆積した地層が隆起して形成された箇所が多いため、風化しやすく崩れやすい。これまでに経験した雨量では崩れなかった場所でも、地震で弱くなっているところに、経験したことがない雨量が降り続くと、一気に崩壊することになる。毎年大雨が降る地域や、直近に豪雨対策が取られている地域では持ちこたえる事ができる雨量でも、今回のように、元々短期間の大雨が少ない地域で、且つ地震で弱くなっている地盤に対しては、致命的な被害をもたらしてしまうことになる。

「想定外」に備えるために

ここまでは、激甚化している豪雨災害における「大雨の稀さ」などの情報を正しく理解して欲しい、という点を解説したが、残念ながらその事前予測については前述のとおりまだまだ科学的にも課題が多い。

豪雨や地震のような自然災害に限らず、現在の世界は「想定外」の災害や地政学的なリスクが多発しており、事前にあらゆるパターンの被害について想定をすることは困難になりつつある。これまでは特定の災害やリスクに備えて、例えば気象情報を取得する、警備会社と契約する、といった対策をとってきた企業も、無限のリスクにどう備えればよいのか、とお考えの方も多いだろう。

そこで、近年注目されているのが「オールリスク」に対応したBCP(事業継続計画)だ。大雨や地震など、特定の自然災害に限らず、ありとあらゆるリスク事象の発生に網羅的に備えるアプローチだ。そして、そのオールリスクのリスク事象覚知に有効なのが、AIとビッグデータを駆使したリスク情報サービス「FASTALERT」である。

FASTALERTは、市民の目撃情報や世界各国のWeb情報などをもとに、自然災害から事件・事故、システム障害、デモ、ストライキに至るまで、約100種類ものリスク事象をリアルタイムに収集している。AIがグローバルに収集したリスク事象の情報について「いつ、どこで起きたものなのか」や、その影響度を分析し、貴社の事業に影響を及ぼしうる情報だけを自動通知してくれる。

「想定外」に対処するためには、まず「知らなかった」「後手に回った」を「迅速に知ることができた」「素早い初動対応に移れた」に変えることが第一歩だ。事前に知りえない出来事全てに備える体制は構築できないし、構築しても機能しない。

まずは「FASTALERT」で、今、何が世界で起きているのかを知り、迅速な初動のために備えられる体制を整備してほしい。
PROFILE
米重  克洋(よねしげ  かつひろ)氏
JX通信社 代表取締役。1988年(昭和63年)山口県生まれ。聖光学院高等学校(横浜市)卒業後、学習院大学経済学部在学中の2008年に報道ベンチャーのJX通信社を創業。「報道の機械化」をミッションに、国内の大半のテレビ局や新聞社、政府・自治体に対してAIを活用した事件・災害速報を配信するFASTALERT、600万DL超のニュース速報アプリNewsDigestを開発。他にも、選挙情勢調査の自動化ソリューションの開発や独自の予測、分析を提供するなど、テクノロジーを通じて「ビジネスとジャーナリズムの両立」を目指した事業を手がける。

他にAI防災協議会理事。著書に「シン・情報戦略」(KADOKAWA)

受賞歴:MIT Technology Review「Innovators Under 35」受賞、「Forbes JAPAN 100」選出​​、WIRED Audi INNOVATION AWARD、Business Insider Game Changerグランプリ
掲載日:2024年10月16日
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能登半島地震からの復旧・復興が道半ばという中で2024年9月に発生した豪雨災害(以下「能登豪雨」とする)は、筆者にとっても衝撃的な出来事だった。

能登半島地震においては、特にソーシャルメディア上で偽の救助要請や「インプレゾンビ」による誤情報の拡散が相次ぐなど、発災直後の情報収集の困難さという課題が浮き彫りになった。

こうした課題を解決すべく、筆者が経営する株式会社JX通信社では、かねて自治体や企業、報道機関に提供してきたAIリスク情報サービス「FASTALERT(ファストアラート)」と、市民参加型ニュース速報アプリ「NewsDigest(ニュースダイダイジェスト)」を活用した、行政の災害時の情報収集・発信のDXに取り組んでいる。その取り組みを今回の地震の被災地でも実践すべく、石川県能登町との連携協定を締結した。
締結式は9月20日だったため、同日に筆者も能登を訪れたが、(参考:https://jxpress.net/12922/)道中、現地の復旧が途上にあることを痛感させられる風景を多く目にした。道路はところどころ陥没、崩落しており、そこを埋めて応急処置的に復旧させている。また、家屋は補修が追いつかず、ビニールシートを被っているところが多い。
<9月20日に撮影した能登町の地震による被害状況(撮影:筆者)>
クリックすると拡大します
そんな状況を目にした翌日、能登半島で急速に発達した線状降水帯のもたらした被害の状況には衝撃を受けた。FASTALERTを通じて刻一刻と私達に伝わってきたのだった。

再びの災害によって長期化する避難生活を余儀なくされている方々には、心よりお見舞い申し上げる。
一方、線状降水帯が日本海側で発生し、これだけの被害をもたらしたことに意外な印象を持った方も多いのではないだろうか。この点をまず解説したい。

線状降水帯の事前情報と予測困難性

線状降水帯に関して気象庁から発表される情報には、「線状降水帯による大雨の半日程度前からの呼びかけ」と「顕著な大雨に関する気象情報」がある。特に呼びかけについては、2024年春から運用が詳細化されたが、残念なことに、今のところこの的中率は10%を下回る。また、「見逃し」も約半数のケースで発生しており、能登豪雨についても、事前に呼びかけることができなかった。
府県単位でのとりまとめ結果
運用開始前の想定(令和5年のデータから検証)
令和6年9月30日時点
線状降水発生の呼びかけ「あり」
のうち
線状降水帯の発生「あり」※2
的中(高い方がよい)
25%程度
(4回に1回程度)
約10%
81回中8回
線状降水発生の発生「あり」※2
のうち
線状降水帯発生の呼びかけ「なし」
見逃し(低い方がよい)
50%程度
(2回に1回程度)
約53%
17回中9回
※2 線状降水帯の実例数と、府県単位での線状降水帯の発生「あり」の数は異なる場合がある。
(出典:https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/jirei/senjoukousuitai/R06jisseki.pdf
線状降水帯の発生メカニズムは、台風と異なり、まだ未解明の部分が多く、観測にあたっても3次元的な解析を要することから、衛星写真等だけでは分析が困難なことがわかっている。気象庁のウェブサイトでも、その予測の困難さが丁寧に解説されている。(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yohokaisetu/senjoukousuitai_ooame.html

予測が困難な災害に対して、私たちができることは、発信される情報に対して、どの程度のリスクであるのかを正しく受け止め、正常性バイアスを打破しつつ、適時適切な行動をとることに尽きる。ここで、最近頻繁に耳にするようになった「経験したことがないような大雨」という表現の意味について確認したい。

「経験したことのない大雨」が降ることの危険性

クリックすると拡大します
上の図は、左が能登半島地震(2024年1月1日)の震度分布、右が能登豪雨においてFASTALERTが土砂災害等を検知した場所(白アイコン)と、「大雨の稀さ」をメッシュ解析した国立研究開発法人防災科学技術研究所(防災科研)のデータを重ね合わせたものである。偶然にも、地震被害が大きかった地域をまさにピンポイントで大雨が襲ってしまったことがわかる。

ここで重要なのは、よく天気予報で見る「1時間あたりの降雨量(雨の強さ)」や、「24時間累積雨量」ではなく、「大雨の稀さ」に着目することだ。「大雨の稀さ」という表現は「◯◯年に一度の大雨」と報道で用いられるように、どれだけ「稀な」出来事なのかを表現するデータで、学術的には「降雨量の再現期間」と呼ばれている。つまり、直近降り続いている雨が、「その地域のこれまでの降雨記録からして、統計的にどのくらいの期間に一度起きうるレベルのものであるか」を、統計的に計算したものだ。防災科研では、観測値を用いてこの計算をリアルタイムに繰り返し、いくつかのパターンで公開している。
https://midoplat.bosai.go.jp/web/3p-rainrp/index.html

このデータは、土砂災害との関連性が強いデータ、浸水害との関連性が強いデータ、など複数あり、一般人が読み解くのはなかなか難しいのだが、FASTALERT上で実際の被害と重ね合わせて表示してみると、ズバリ、「100年に一度レベル」と判定されている紫色の地域に土砂災害の被害が集中していることがわかる。

地質学の専門家によれば、能登半島では溶岩や火砕流が堆積した地層が隆起して形成された箇所が多いため、風化しやすく崩れやすい。これまでに経験した雨量では崩れなかった場所でも、地震で弱くなっているところに、経験したことがない雨量が降り続くと、一気に崩壊することになる。毎年大雨が降る地域や、直近に豪雨対策が取られている地域では持ちこたえる事ができる雨量でも、今回のように、元々短期間の大雨が少ない地域で、且つ地震で弱くなっている地盤に対しては、致命的な被害をもたらしてしまうことになる。

「想定外」に備えるために

ここまでは、激甚化している豪雨災害における「大雨の稀さ」などの情報を正しく理解して欲しい、という点を解説したが、残念ながらその事前予測については前述のとおりまだまだ科学的にも課題が多い。

豪雨や地震のような自然災害に限らず、現在の世界は「想定外」の災害や地政学的なリスクが多発しており、事前にあらゆるパターンの被害について想定をすることは困難になりつつある。これまでは特定の災害やリスクに備えて、例えば気象情報を取得する、警備会社と契約する、といった対策をとってきた企業も、無限のリスクにどう備えればよいのか、とお考えの方も多いだろう。

そこで、近年注目されているのが「オールリスク」に対応したBCP(事業継続計画)だ。大雨や地震など、特定の自然災害に限らず、ありとあらゆるリスク事象の発生に網羅的に備えるアプローチだ。そして、そのオールリスクのリスク事象覚知に有効なのが、AIとビッグデータを駆使したリスク情報サービス「FASTALERT」である。

FASTALERTは、市民の目撃情報や世界各国のWeb情報などをもとに、自然災害から事件・事故、システム障害、デモ、ストライキに至るまで、約100種類ものリスク事象をリアルタイムに収集している。AIがグローバルに収集したリスク事象の情報について「いつ、どこで起きたものなのか」や、その影響度を分析し、貴社の事業に影響を及ぼしうる情報だけを自動通知してくれる。

「想定外」に対処するためには、まず「知らなかった」「後手に回った」を「迅速に知ることができた」「素早い初動対応に移れた」に変えることが第一歩だ。事前に知りえない出来事全てに備える体制は構築できないし、構築しても機能しない。

まずは「FASTALERT」で、今、何が世界で起きているのかを知り、迅速な初動のために備えられる体制を整備してほしい。
PROFILE
米重  克洋(よねしげ  かつひろ)氏
JX通信社 代表取締役。1988年(昭和63年)山口県生まれ。聖光学院高等学校(横浜市)卒業後、学習院大学経済学部在学中の2008年に報道ベンチャーのJX通信社を創業。「報道の機械化」をミッションに、国内の大半のテレビ局や新聞社、政府・自治体に対してAIを活用した事件・災害速報を配信するFASTALERT、600万DL超のニュース速報アプリNewsDigestを開発。他にも、選挙情勢調査の自動化ソリューションの開発や独自の予測、分析を提供するなど、テクノロジーを通じて「ビジネスとジャーナリズムの両立」を目指した事業を手がける。

他にAI防災協議会理事。著書に「シン・情報戦略」(KADOKAWA)

受賞歴:MIT Technology Review「Innovators Under 35」受賞、「Forbes JAPAN 100」選出​​、WIRED Audi INNOVATION AWARD、Business Insider Game Changerグランプリ
掲載日:2024年10月16日
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