必要なリスク情報をいち早く収集するFASTALERT 南海トラフ地震臨時情報への企業の対応から見る、BCPにおける情報収集の課題

宮崎県で最大震度6弱を観測した地震を受け、制定以来初めて発表された「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」は、政府としての特別な注意の呼びかけ期間が2024年8月15日17時をもって終了した。お盆休みにあたる期間であったことから、交通機関や観光業界では運行予定の変更やキャンセルの続出などの影響が出たが、休暇中だったと思われる製造業などの産業界での対応はどうだったろうか。QUICKでは9月の「QUICK短期経済観測調査(QUICK短観)」にあわせて、上場企業に対するアンケートを実施した。
今月9月のQUICK短観では特別質問として「南海トラフ地震」に関する臨時情報の対応についてアンケートを実施しました。
【設問】
気象庁は8月8日、宮崎・日向灘を震源とするマグニチュード(M)7.1の地震を受けて、南海トラフ地震に関する臨時情報の「巨大地震注意」を初めて発表しました。
これを受けて貴社ではどのような対応をとりましたか。次のうちから近いものを1つお選びください。
防災対策の強化や再点検を行った企業は6割超現状維持の企業は4割弱
 対応本部の立ち上げなど臨対策を行った 4%
 防災対策を強化した 1%
 防災対策の再点検や社員への注意喚起を行った 57%
 現状維持 35%
 その他 2%
調査期間:8月27日~9月5日 回答企業:187社
ほとんどの会社が「注意喚起」などの対応をとっているが、具体的に「何を対処すれば良いのか」について、対応に苦慮した企業も多かったのではないだろうか。

「南海トラフ地震臨時情報」とは、監視領域内でマグニチュード6.8以上の地震が発生した場合に「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」を開催し、モーメントマグニチュード7.0以上の地震が発生したと評価した場合には「巨大地震注意」、さらに想定震源域内のプレート境界において、モーメントマグニチュード8.0以上の地震が発生したと評価した場合には「巨大地震警戒」が発表されるものである。
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つまり、「大きな地震が想定域で発生したので、連続して大きな地震が起きる可能性が否定できない」ことを表すもので、地震を予知するものではない。このことについて、多くの人は「地震予知」なのだと誤った受け止めをした結果、水やコメ、防災用品などの在庫が一時的に枯渇するなどの影響があった。

「巨大地震警戒」が発表された場合にも、すべての人に事前避難を求めるものではないが、地震発生後に避難するのでは間に合わない可能性がある要支援者(高齢者、障がいをお持ちの方など)については、事前避難が促される。今回の「巨大地震注意」でも、一部の自治体では自主避難所が開設されたが、統一的なルールではないため、対応は自治体によって分かれた。

企業における対応と課題

今回の臨時情報のきっかけとなった日向灘沖地震では、旭化成など一部の企業で工場の創業一時停止などの影響が出たが、被害は限定的だったため、多くの企業で生産活動の停止などの対応はとらなかったようである。

他方、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」が発表された場合、事前避難対象地域では、事前避難を伴う大きな社会的影響が想定されている。このとき、業界としてどのように対応するのかは、事前の協議が今後行われるべきだろう。

言うまでもなく、企業は様々な取引先との関係性によって事業活動を行っている。このような国家的事案の発生時には、各社がどのように対応し、どのような影響が出ているのか、情報収集に追われることが想定される。

国内だけではない、海外地震によるサプライチェーンへの対応

巨大地震のリスクは、当然国内だけではない。台湾で2024年4月に発生した地震では、多くの半導体関連企業が自社への影響を懸念し、情報収集を行ったのではないだろうか。

震源地となった花蓮県では激甚な被害があったものの、詳細を分析すると、日本企業と関連の深い台北や新竹などの被害は限定的であった。JX通信社では、AIで国内外の情報をビッグデータから収集し、内容評価の上で配信する「FASTALERT」(代理店:QUICK)を通じて、報道機関や企業、自治体等に提供している。
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情報収集の自動化、機械化がポイント

他方、インターネットを用いた情報収集では、能登半島地震でも問題となったデマ情報(誤・偽情報)の拡散が課題となる。南海トラフ地震臨時情報の発表の際にも、「南海トラフ地震が◯月◯日に起きる」といった噂が大きく広がった。
 
【今回の情報をきっかけに拡散された”地震予知のデマ投稿”の例】
生成AIの発展に伴い、偽情報を作成・拡散するためのコストはどんどん低下し、インターネットはAIによる生成情報によって混乱を深めている。本来、こういった問題はSNS等のプラットフォーマーが責任をもって対処すべきであるが、合理的かつ効果的な解決策が見いだされていないのが現状だ。

「FASTALERT」では、自社独自のAI技術と、専門スタッフによる知見を元に、国内外のSNSや報道情報、様々なビッグデータを駆使して、デマ情報を排除したうえで、今どこで、何が起きているのかをリアルタイムに可視化することに取り組んでいる。直近では、能登半島地震で大きな被害を受けた石川県能登町とも連携協定を締結し、地道な取り組みを広げている。災害時に人力ではもはや不可能となりつつある、「正しい情報の収集」を自動化・機械化し、どのような打ち手を取ることで、事業の継続、早期再開につなげるかに専念いただきたいと考えている。

貴社のサプライチェーンやBCP(事業継続計画)の維持において、情報収集に専ら対応するスタッフは、果たして何人いるだろうか。情報収集作業の属人化を解消することを、ぜひ検討してみていただきたい。
 
PROFILE
米重  克洋(よねしげ  かつひろ)氏
JX通信社 代表取締役。1988年(昭和63年)山口県生まれ。聖光学院高等学校(横浜市)卒業後、学習院大学経済学部在学中の2008年に報道ベンチャーのJX通信社を創業。「報道の機械化」をミッションに、国内の大半のテレビ局や新聞社、政府・自治体に対してAIを活用した事件・災害速報を配信するFASTALERT、600万DL超のニュース速報アプリNewsDigestを開発。他にも、選挙情勢調査の自動化ソリューションの開発や独自の予測、分析を提供するなど、テクノロジーを通じて「ビジネスとジャーナリズムの両立」を目指した事業を手がける。

他にAI防災協議会理事。著書に「シン・情報戦略」(KADOKAWA)

受賞歴:MIT Technology Review「Innovators Under 35」受賞、「Forbes JAPAN 100」選出​​、WIRED Audi INNOVATION AWARD、Business Insider Game Changerグランプリ
掲載日:2024年10月16日
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宮崎県で最大震度6弱を観測した地震を受け、制定以来初めて発表された「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」は、政府としての特別な注意の呼びかけ期間が2024年8月15日17時をもって終了した。お盆休みにあたる期間であったことから、交通機関や観光業界では運行予定の変更やキャンセルの続出などの影響が出たが、休暇中だったと思われる製造業などの産業界での対応はどうだったろうか。QUICKでは9月の「QUICK短期経済観測調査(QUICK短観)」にあわせて、上場企業に対するアンケートを実施した。
今月9月のQUICK短観では特別質問として「南海トラフ地震」に関する臨時情報の対応についてアンケートを実施しました。
【設問】
気象庁は8月8日、宮崎・日向灘を震源とするマグニチュード(M)7.1の地震を受けて、南海トラフ地震に関する臨時情報の「巨大地震注意」を初めて発表しました。これを受けて貴社ではどのような対応をとりましたか。次のうちから近いものを1つお選びください。
防災対策の強化や再点検を行った企業は6割超現状維持の企業は4割弱
 対応本部の立ち上げなど臨対策を行った
 防災対策を強化した
 防災対策の再点検や社員への注意喚起を行った
 現状維持
 その他
調査期間:8月27日~9月5日 回答企業:187社
ほとんどの会社が「注意喚起」などの対応をとっているが、具体的に「何を対処すれば良いのか」について、対応に苦慮した企業も多かったのではないだろうか。

「南海トラフ地震臨時情報」とは、監視領域内でマグニチュード6.8以上の地震が発生した場合に「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」を開催し、モーメントマグニチュード7.0以上の地震が発生したと評価した場合には「巨大地震注意」、さらに想定震源域内のプレート境界において、モーメントマグニチュード8.0以上の地震が発生したと評価した場合には「巨大地震警戒」が発表されるものである。
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つまり、「大きな地震が想定域で発生したので、連続して大きな地震が起きる可能性が否定できない」ことを表すもので、地震を予知するものではない。このことについて、多くの人は「地震予知」なのだと誤った受け止めをした結果、水やコメ、防災用品などの在庫が一時的に枯渇するなどの影響があった。

「巨大地震警戒」が発表された場合にも、すべての人に事前避難を求めるものではないが、地震発生後に避難するのでは間に合わない可能性がある要支援者(高齢者、障がいをお持ちの方など)については、事前避難が促される。今回の「巨大地震注意」でも、一部の自治体では自主避難所が開設されたが、統一的なルールではないため、対応は自治体によって分かれた。

企業における対応と課題

今回の臨時情報のきっかけとなった日向灘沖地震では、旭化成など一部の企業で工場の創業一時停止などの影響が出たが、被害は限定的だったため、多くの企業で生産活動の停止などの対応はとらなかったようである。

他方、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」が発表された場合、事前避難対象地域では、事前避難を伴う大きな社会的影響が想定されている。このとき、業界としてどのように対応するのかは、事前の協議が今後行われるべきだろう。

言うまでもなく、企業は様々な取引先との関係性によって事業活動を行っている。このような国家的事案の発生時には、各社がどのように対応し、どのような影響が出ているのか、情報収集に追われることが想定される。

国内だけではない、海外地震によるサプライチェーンへの対応

巨大地震のリスクは、当然国内だけではない。台湾で2024年4月に発生した地震では、多くの半導体関連企業が自社への影響を懸念し、情報収集を行ったのではないだろうか。

震源地となった花蓮県では激甚な被害があったものの、詳細を分析すると、日本企業と関連の深い台北や新竹などの被害は限定的であった。JX通信社では、AIで国内外の情報をビッグデータから収集し、内容評価の上で配信する「FASTALERT」(代理店:QUICK)を通じて、報道機関や企業、自治体等に提供している。
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情報収集の自動化、機械化がポイント

他方、インターネットを用いた情報収集では、能登半島地震でも問題となったデマ情報(誤・偽情報)の拡散が課題となる。南海トラフ地震臨時情報の発表の際にも、「南海トラフ地震が◯月◯日に起きる」といった噂が大きく広がった。
【今回の情報をきっかけに拡散された”地震予知のデマ投稿”の例】
生成AIの発展に伴い、偽情報を作成・拡散するためのコストはどんどん低下し、インターネットはAIによる生成情報によって混乱を深めている。本来、こういった問題はSNS等のプラットフォーマーが責任をもって対処すべきであるが、合理的かつ効果的な解決策が見いだされていないのが現状だ。

「FASTALERT」では、自社独自のAI技術と、専門スタッフによる知見を元に、国内外のSNSや報道情報、様々なビッグデータを駆使して、デマ情報を排除したうえで、今どこで、何が起きているのかをリアルタイムに可視化することに取り組んでいる。直近では、能登半島地震で大きな被害を受けた石川県能登町とも連携協定を締結し、地道な取り組みを広げている。災害時に人力ではもはや不可能となりつつある、「正しい情報の収集」を自動化・機械化し、どのような打ち手を取ることで、事業の継続、早期再開につなげるかに専念いただきたいと考えている。

貴社のサプライチェーンやBCP(事業継続計画)の維持において、情報収集に専ら対応するスタッフは、果たして何人いるだろうか。情報収集作業の属人化を解消することを、ぜひ検討してみていただきたい。
 
PROFILE
米重  克洋(よねしげ  かつひろ)氏
JX通信社 代表取締役。1988年(昭和63年)山口県生まれ。聖光学院高等学校(横浜市)卒業後、学習院大学経済学部在学中の2008年に報道ベンチャーのJX通信社を創業。「報道の機械化」をミッションに、国内の大半のテレビ局や新聞社、政府・自治体に対してAIを活用した事件・災害速報を配信するFASTALERT、600万DL超のニュース速報アプリNewsDigestを開発。他にも、選挙情勢調査の自動化ソリューションの開発や独自の予測、分析を提供するなど、テクノロジーを通じて「ビジネスとジャーナリズムの両立」を目指した事業を手がける。

他にAI防災協議会理事。著書に「シン・情報戦略」(KADOKAWA)

受賞歴:MIT Technology Review「Innovators Under 35」受賞、「Forbes JAPAN 100」選出​​、WIRED Audi INNOVATION AWARD、Business Insider Game Changerグランプリ
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