人新世は英語で「アントロポセン」ともいい、地質学的な時代区分において「人類の痕跡が地球を覆いつくした時代」を意味する。新しい「人新世」の時代は1950年ごろ以降とされる方向であり、核実験で放出された放射性物質、化石燃料由来の炭素、プラスチックやコンクリートなどが地層から確認できるという(注1)。人新世の概念を「資本新世」と呼ぶべきであるという考え方もある。「資本新世」の概念は、社会学者であるジェイソン・W・ムーア(Jason W. Moore)によって提唱された。彼は、資本主義経済の成立と拡大が自然環境の変容をもたらし、自然資源の略奪やエネルギーの消費、環境破壊などを引き起こすと主張する(注2)
。社会科学、人文科学においては上記の意味において「人新世」がよく使われる(注3)。本コラムにおいてもこの意味で使用する。
本コラムでは、社会の進化の中でESGを捉える試みとして「人新世」時代におけるESGについて考えてみたい。ここで重要となる鍵は、企業と投資家を含むステークホルダーが持続可能性に関する課題や取組について相互に対話・協力し、共通の目標に向けて取り組むエンゲージメントであると思う。第1回は総論として、ESGエンゲージメントの潮流とそれに反するESG課題解決に対する疑問について考える。第2回と第3回では企業と投資家のエンゲージメント事例を取り上げながら考察する。
(注1)『日本経済新聞』2023年2月4日、「地質年代の新時代『人新世』誕生へ地層候補に別府湾も」
(注2)Moore,W.Jason(2015) Capitalism in the Web of Life: Ecology and the Accumulation of Capital、Verso.
(注3)ディペシュ・チャクラバルティ(2023)『人新世の人間の条件』晶文社.斎藤幸平(2020)『人新世の資本論』集英社新書
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