ESG研究所株主提案議案(2)気候関連は一定の賛同にとどまる

株主提案議案(2)気候関連は一定の賛同にとどまる

2025年前半に開催された定時株主総会で、ESG関連の株主提案議案では社外取締役の人数などG(ガバナンス)分野が目立った。E(環境)分野の気候変動に関連する株主提案議案の決議状況を調べたところ、賛成率が一部で10%台と一定の賛同を集めたものの、昨年までと比べると勢いがやや弱かったように見える。

 

 

2025年の7社への株主提案議案2本のうち1本は、監査役会などの財務リスク監査の情報開示を定款に加えることを求めたものだ。「気候変動等の重大な課題に起因する急性かつシステミックな財務リスク」の監督を問うもので、7社の中で三井住友フィナンシャルグループ(8316)に対する議案の賛成率が15.22%と最も高かった(表3-1)。

もう1本は、みずほフィナンシャルグループ(8411)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)、三井住友FGの3メガバンクには「顧客の気候変動移行計画の評価に関する情報開示」を求めた。また、三井物産(8031)、住友商事(8053)、三菱商事(8053)の総合商社3社と中部電力(9502)には「パリ協定に基づく1.5度目標の不達成時に想定される財務的影響に関する情報開示」を要求した。これも賛成率が最高だったのは三井住友FGで14.79%だった。

メガバンクに提出された「顧客の気候変動移行計画の評価に関する情報開示」は24年の「顧客の気候変動移行計画の評価」と内容が被っている。25年の提案では「顧客がパリ協定に沿った信頼性ある移行計画を持たないことに伴う当会社の財務リスクに係る評価」が加わったが、「顧客の気候変動移行計画とパリ協定1.5度目標との整合性についての評価基準や評価方法」、「顧客がパリ協定に沿った信頼性のある移行計画を作成しなかった場合の対応措置」の2項目は基本的に同じだ。

 

 

「顧客の気候変動移行計画の評価」関連議案の賛成率は、三井住友FGが24年の24.21%から25年は14.79%に、みずほFGは22%から10%に、三菱UFJは18.38%から8.94%にそれぞれ低下した(表3-2参照)。この背景には、例えば、三菱UFJは「MUFG Climate Report 2025」で顧客の移行状況の評価を示すなど、各社の気候変動に関する取り組みが進んできたことがあるものと考えられる。

また、制度上の問題として「勧告的提案」だと企業が株主総会の議案として取り上げない可能性が高いため、議案上程のために定款変更を要求することが、賛同を得づらくしている面もあるのではないか。気候変動のみに焦点を当てた個別具体的な業務執行に関する内容を定款に組み込むと機動的な対応を損ないかねないという会社側の主張が受け入れやすいからだ。

それでも株主提案議案が一定の賛同を得れば、企業としては無視できまい。20年のみずほFGへの株主提案議案が3割を超す賛成率を得てから5年。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に沿った開示が普及し、提案者らとの対話も踏まえて企業が対応してきたのは間違いない。トヨタ自動車(7203)が21年から作成し、内容を毎年拡充している「気候変動政策に関する渉外活動の報告書」もその一例と言えよう(表3-3、表3-4参照)。

 

 

 

ここにきてトランプ政権下での米国発の「反ESG」に加え、欧州でも企業の負担軽減のために規制簡素化の動きもみられる。気候関連の株主提案議案の賛成率低下はこうした欧米情勢が原因というわけではなく、定款に書き込むことへの抵抗感に加え、日本企業の気候変動対応がそれだけ進んできたことが一因ではないかと考えられる。

(QUICK ESG研究所 遠藤大義)

=おわり