外国為替市場のメカニズムを理解し、ヘッジ技術を磨こう! 為替リスクのヘッジ技術を磨く

前回のコラムでは現物市場と派生市場の接点に着目して外国為替市場のメカニズムについて考察しました。最終回の今回は為替リスクのヘッジ技術向上について触れます。ヘッジ操作の巧拙は企業業績を大きく左右します。このコラムが理論武装の強化につながり、ヘッジ操作の最適化を図る場となれば大変うれしく思います。

 

 

為替リスクのヘッジ手段は3つ

為替リスクをヘッジする手段は次の3つしかありません。

 

1.オープン(今日物、未ヘッジ)

2.為替予約

3.為替デリバティブ(通貨オプション、クーポンスワップ)

 

為替取引のプロである金融機関も同様に、保有する為替リスクをこの3つの手段を使ってコントロールします。その具体的な内容について以下、解説します。

 

1.オープン(今日物、未ヘッジ)

何もヘッジしていない状態を言います。 決済当日に金融機関と外貨を売買します。決済当日まで為替レートを確定させることができないため、企業は為替リスクにさらされます。

 

2.為替予約

将来の外貨の入金日や支払日に合わせて為替レートを確定させます。 企業が採用するヘッジ手段では最もポピュラーです。ヘッジ期間も短期から長期までカバーできます。将来の為替レートは現物価格から2国間の金利差で調整されて決まります。ドル円の場合、ドルが円に対して減価していく体系となっているため、ヘッジ期間が長くなるにつれて予約レートはドル安円高にシフトしていきます。この金利体系の要因から、輸出企業はヘッジが短期しかカバーできず、長期はフルオープンとなってしまう傾向にあるようです。

 

 

(出典)QUICK WorkStation 外国為替情報(フォワード)上田東短フォレックス

 

 

3.為替デリバティブ(通貨オプション、クーポンスワップ)

通貨オプションやクーポンスワップを用いて、当初決めた価格で外貨を売買したり外貨と円貨の金利を交換したりすることにより、為替リスクをヘッジする手段です。前述の今日物や為替予約のような現物主導のヘッジ手段とは異なり、デリバティブはカスタムメイドによる柔軟なヘッジ領域を作り出すことが可能です。

 

 

為替市場のトピックと手段でヘッジ技術を磨く

3つのヘッジ手段と過去2回のコラムで取り上げた外国為替市場のトピックを組み合わせ、ヘッジアイデアをいくつか考えてみます。

 

1.オープン(今日物、未ヘッジ)

安易に金融機関の仲値に持ち込んでいいものか、検討する余地はあると思います。仲値は不足に傾く傾向にあると紹介しましたが、そうであれば輸入は高値掴みとなり、逆に輸出にとっては好都合となります。

 

2.為替予約

先にスポットの値決め(売買)を完了させ、後で期日までのフォワード(スワップ)を値決めする方法も考えられます。その場合、やはりスポット市場に特別な需給が働く午前10時前後と午後3時前後の相場動向を利用したり、排除したりするアイデアも有効ではないでしょうか。東京カットのPINの位置は、情報を保有している金融機関からマーケットレポート等で入手できることがあります。

 

3.為替デリバティブ(通貨オプション、クーポンスワップ)

通貨オプションは「為替の保険」に例えられます。その保険料の算定根拠になるのがボラティリティで、市場参加者の予測や期待が反映された将来の変動率のことです。ボラティリティが高いと大きな相場展開が予想され、保険が行使される確率が高まるため、保険料は上がります。逆に、PINが噂されたり、ホリデーシーズンに突入したりすると相場が膠着し、ボラティリティの低下を連想させます。保険の購入者はボラティリティが低いときに割安な保険料で購入したいところです。

 

以上のアイデアは、3つのヘッジ手段と市場のメカニズムを単純に組み合わせただけで、企業が保有する為替リスクの性質を一切考慮していません。例えばビジネスサイクルが長くヘッジ戦略が長期の場合、スポットの値動きと同等に2国間の金利差に着目する必要性が生じます。最も重要なのは、これら3つのヘッジ手段を使ってどう采配を振るかということです。オープンの状態を100%に定めてしまうと、相場展開が意に反した場合に深刻なダメージを被ってしまいますし、単純に3つのヘッジ手段で均等割りというのも最適かどうか疑問です。さらに、3つのヘッジ手段のうち2つしか利用方法がわからないという状況があるとすれば、精度の高いヘッジ戦略を立てることは極めて困難です。繰り返しになりますが、ヘッジ操作の巧拙は企業業績に直結します。3つのヘッジ手段を駆使してヘッジ比率(※)をコントロールすることが重要です。

 

 

続きはウェビナーで掘り下げ

采配の手掛かりとなる市場の構造についても理解を深める必要があります。例えば、「ドル金利が上昇すると、ドル円も上昇する(ドル高円安)」という事象は感覚的に刷り込まれていますが、これも現物市場と派生市場との関係上、既に仕組まれているものです。 紙幅の都合上、このような市場の基本構造の全てをこのコラムでお伝えすることはできませんでした。6月25日開催予定のウェビナーでは皆様といっしょに、3つのヘッジ手段と市場の基本構造についてさらに掘り下げたいと考えています。

 

 

<用語解説>(※)

今回のキーワードは「ヘッジ比率」

ヘッジ対象の為替全体に対してヘッジを完了させた割合のこと。仮に為替リスクの総量を100とした場合、為替予約30・通貨オプション20でヘッジを完了させた場合、ヘッジ比率は50%となり、残り50%が未ヘッジのオープンの状態となる。ヘッジ比率は企業のヘッジに対する考え方、社内レートや相場つき等で上下する。ヘッジ取引の相手方となる金融機関は、企業側から開示されるヘッジ比率に基づいて適切なヘッジ手段を提案しなければならない立場とされるため、企業のヘッジ状況の把握に努めている。これは過去に、ヘッジ提案がデリバティブ偏重となった結果、リーマンショック時には巨額のデリバティブ損失を被る企業が相次ぎ社会問題となったためで、現在では「適合性の原則」が重要視されている。

 
宮崎 啓介氏

さくら銀行(現三井住友銀行)、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)、BNPパリバ銀行で外国為替業務に従事。通貨オプションディーラーとしてポートフォリオ運用、為替デリバティブ業務などを経験した。

J-Money誌による東京外国為替市場調査・デリバティブディーラーランキング1位(2011年、2012年)。

2015年に株式会社ヘイルメリーインベストメントを設立し、為替デリバティブのリスク管理サービス「Vegasen」を展開中。

 
   

掲載日:2021年6月9日

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