財務実務家のつぶやきVol.1

会計と財務の違いは?

コラム初回は会計と財務を対比させましたが、この二項対立が良いかどうか迷いました。日系企業の財務経理部門の組織形態を考えると、会計は経理と同一視される場合が多いようです。英語ではaccountingで会計原則も経理業務も意味します。財務という言葉にはfinancial reportingからイメージできる財務とcorporate finance やtreasury を意味する財務があり、こちらは混同して使われています。


財務部をFinance Divisionと呼ぶ会社では、いわゆる予算や決算、税務を中心とした経理業務と資金調達を主とするいわゆる資金関連業務の両方の責任を担い、経営数字を一手に引き受けています。一方、Treasury Divisionと呼ぶ会社では、資金関連業務に特化した責任を担う専門部隊の色彩が濃いといえます。いずれの組織形態が良いかは一概に言えませんが、前者は経営企画的な対応が可能で、後者は財務の専門人材育成に利点があるといえるでしょう。グローバル化の進展により国際財務の専門性を求められる環境では、各社の成長段階および人的リソースにより最適解が異なります。


筆者が以前、財務部長を務めた会社では、財務部の英文表記はTreasury Divisionでした。経理部から独立した部として、国際化の進展に伴い数々の手法を導入して財務の高度化を図ることができましたが、当時の組織形態も影響していると思います。


会計あるいは経理と財務のものの見方の違いについて、よく言われる代表的な表現を2つ紹介します。


会計は意見、キャッシュは現実

一つは「会計は意見、キャッシュは現実」。会計には国ごとに異なる会計基準があり、どの基準を使うかによって利益という答えが異なります。会計では様々な答えがあるため、意見という表現になる。一方、キャッシュがいくら残ったかは会計基準が異なっても答えは一つ。ごまかしはききません。それで、キャッシュは実態を表す現実という表現になるわけです。


評価する会計基準によって結果が異なるため、投資家の立場からすると会計基準の異なる2社を比較するのは難しい。必然的にキャッシュ、あるいはキャッシュフローをベースに評価することになります。上記の表現は「会計は利益で評価し、財務はキャッシュフローに注目」と言い換えることができます。


企業の存亡を考えるとき、資金(キャッシュ)はその肝になります。黒字倒産という言葉に代表されるように、利益だけ見て資金を見ていないと、倒産に至るリスクを見逃す可能性があります。意見と現実の対比は「キャッシュにも十分な注意を払いなさい」という警句でもあるのです。


会計は過去の記録、財務は将来を語る

もう一つは「会計は過去の記録、財務は将来を語る」。これは会計と財務の時間軸の違いを表しています。


財務の資金(トレジャリー)業務では、今日の資金不足を起こさず、短期の1年以内の資金の過不足を視野に入れた流動性リスク管理が最優先課題です。現時点での資金の過不足に対してはキャッシュマネジメント、将来の資金ポジションの過不足に対しては資金予測で備えることになります。


会計は制度会計と管理会計に分類できます。管理会計は将来の予測を扱うため、必ずしも正確ではありませんが、会計の基本は「正確な取引記録に基づく利益計算」です。方や財務の資金(トレジャリー)業務では、今日の資金不足を起こさず、短期(1年以内)の資金の過不足を視野に入れた流動性リスク管理が最優先課題です。現時点での資金の過不足に対してはキャッシュマネジメント、将来の資金ポジションの過不足に対しては資金予測で備えることになります。


時間軸でいえば、会計・経理は月次決算が基本で、月次ベースの管理サイクルが根付いています。財務でのキャッシュマネジメントは無駄な資金を持たないことが原則で、日次ベースでゼロバランスの口座残高管理が理想となります。


会計経理、財務、企画などにキャリアパスが分かれ、同じ会社の同じ部門内で人材を育成する傾向のある日本企業の縦割り組織(サイロと呼ばれる)は、欧米企業のCEO OfficeやCFO Officeに比べ、経営幹部の育成には適していないように思われます。筆者は、財務(トレジャリー)をキャッシュで見る管理会計と位置づければ壁をなくすことができると考えますが、いかがでしょうか。


リアルタイムで動く市場や資金の移動を相手にする財務(トレジャリー)の業務はグローバル化の進展によってますます複雑化しています。一方で、属人的・職人的な性格を帯びた財務(トレジャリー)業務も、テクノロジーの進歩(AIやAPIなど)によってモニタリングの分野では自動化が大きく進む可能性が高い。経理、財務の業務も様々なデータを駆使する分析により経営の意思決定に貢献できるかどうかが問われる時代に、管理部門のサイロ化は弊害になります。


 

大田研一氏

電機メーカー(NEC)の財務30年で海外勤務13年(ニューヨーク)。

米国の財務手法を日本に移植

(CMS、コミットメントライン、本社ビルの証券化、シンセティックリース等)。

2001年から投資銀行、ベンチャー企業、戦略コンサルティング、MOT大学院教授を経て、2008年に株式会社アコーディア・ゴルフの取締役常務執行役員に就任。

2010年に退任し、現在は財務コンサルタント、社外取締役、大学兼任講師で活動。

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掲載日:2020年1月8日

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